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流れ流れて早幾年。いろんな役に立つサイトを紹介します。

出版とWeb、ケータイそれぞれのコストの考え方が相容れない件について

全部に関係してかついくつかの事例は聞いているものの、全部の細かいところまでは見ていないので現場からみたらば「これは違うわ」という点もあるかもしれませんが、その点はご容赦を。

印刷(出版)はものすごく数が増えるとコストが落ちる、という部分では優位な媒体

出版の凋落話を書いたらアクセスがそれなりに行って、感想いただいた某所にコメント入れたら(サイト管理者とは別の人からですが)「ビックビジネスとか言ってる時点で(わらい)」とか言われてしまった。そりゃ、一般的に出版に描く企業規模を考えたら、大手以外はそんなに割りよくなさそうにも見えるだろう。容易にわかってくれないのもわかるんだけど、実は印刷というのは、数を大量に刷ると、細かいセッティングがいらずあとはまわしておくだけ、という状態になる。印刷機が遊ばない分「ものすごく」単価が下がるのだ。こればかりは、印刷物作ったことない人にはわかんないかもしれないね。

で、今どき出版不況でそんなこと無いと思ってる人も多いけど、たとえば小悪魔agehaみたいに特殊的に隙間市場を開発して急上昇した媒体もある。だからあの本は(印刷コストが低いから)フルカラーだったりするわけだ。

同人誌の印刷見積もりをしたことがある人なら、この「コストが下がる」仕組みはわかる。
価格表の部数別価格の羅列を見て、印刷代を部数で割る。単価は低部数から高部数で、みるみると最初の半分以下になったりする。
「刷ればするほど下がるんだな…」ということは肌で理解できるはず。

オールドメディアである印刷物なんて時代遅れだけど、それの持つメリットは刷り部数が増えれば増えるほどのコスト低減が容易なんだよね。だからかつては利益の最大化がすごかった。

人件費や制作費なんて、売れれば増えはするけど微増で固定になるから、あとの印刷代がは増えれば下がるため。とにかく売れるとコストダウンが激しく、スパイラルに入ると利益が大きい。すごく下世話な言い方をすれば、数が行ったとき「お札を刷っているようなもん」という状態まで持っていけるわけ。紙代、輸送費は減らずにかかるけど。

そりゃ、今は出版市場、小さくなってきてはいるけれど(特に雑誌のパイ)、そういうこともあるんだな、程度の理解をしてもらえると幸い。最近はPOSがあるからそんなにないだろうけど、見込みで刷りすぎて一挙に戻ってきて失敗するケース(黒字倒産)もあるので、なんでも儲かるわけでもないですが。

一方でwebの場合はスタートアップ時のインフラのコスト負担は軽いんだけど、メジャーサービスになるとインフラはだんだんと運営者の懐を圧迫してくる(だから売っぱらうという感覚があるんだろうけど)。

ネットってコストかかんねーじゃんw などというのは幻想。低いだけ

比較として、webの中でも各社があんまり儲からないといいながら無料を主軸に続けている、ブログサービス類がなんとなく出版の世界に近いんで、例として上げてみる。

ブログサービスは、全体のアクセスが増えると、収容されるデータセンターの選び(国内/海外)とか、機器やサーバスペックを上げて台数を減らす、またソースを最適化したり圧縮して読み込みの転送量を下げるなどの方法はあるにせよ、アクセス数にあわせて原価(いわゆるサーバ代、サーバ側が負担する転送量負担、監視などの負担)は増大していく。

ブログなんてコストかかんねーじゃん、ただじゃん、とユーザーの側から見たら思うだろうが、確かに1人頭の原価は印刷代よりははるかに安いのだが、コストはかかっており、最初のサーバの1人当たりコストは低いので、サーバ側が入れる広告程度で相殺は可能だが、急激に伸びたサイトの分の原価はサービス側が「赤字」で負担している。

正直、たとえばものすごいアクセスがある2ちゃんまとめサイトなどを作っている人が収容されている無料ブログサーバは、間違いなく業者は、そのブログ単体で見たときには、「赤字」を出している(ソースは業者関係者)。当然顧客だから「どのブログが」とはぜったいサーバ側も言わないが。(それがまとめサイト運営者に転化されないのは、人気のサイトを抱えることで、ブログサービス全体のpvが増えるというメリット、そこの読者に自分のブログサービスが選ばれるメリット、さらに高アクセスながらそれで落ちないというサービスの剛性の点で「宣伝」になるからと推測される。他の黒字部から補填をしているという妥協をしているわけだ)。

ブログサービスの不思議なアナログ感覚

ここで、おかしいのはすごく広告の追跡や効果の定量化ができるから損はないですよ、と言っているweb業界なのに、ブログサービスの場合はその人気ブログに関して収益化に結びつけた細かいデータを取るわけでもなく、まあ全体で少し黒字になればいいや、みたいな概念的なもので放置してるのが不思議。まぁ昔のレンタルサーバみたいに「転送量でもう赤字ですから有料ですよ、もしくは移転してください」っていったら「うわここ最悪」と噂が立って他に移っちゃうだけだから野暮なんだろうけど。

ブログサービスはどちらかというと「日記の可視化によるコンテンツ」「個人からの発信される情報による報道の変化やCGMの可能性」という啓蒙の側面が強いものだから、『なんかとりあえず同じドメイン内のpv伸ばしとけば(アクセスによるポータル評価的にもSEO的にもメリットあるだろ)みたいな、またidを取得させれば自社に利益誘導できるから(メリットあるだろ)みたいな』程度の考えなのかもしれない。ライブドアが初期に伸びてたときはそういう考えなんだろうなぁと思われたが。

そこがwebのいいところなんだけど、結果としてブログサービスはなんだか事業としてはどんぶり勘定ではある。

webの商用サービスはすごいコスト負担をしている

[24時間365日] サーバ/インフラを支える技術 ?スケーラビリティ、ハイパフォーマンス、省力運用 (WEB+DB PRESS plusシリーズ)

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個人サービスでレンタルの共有鯖しか使ってない人は「ぜんぜんコストかかんねーよ」と思うかもしれないけれど、確かにスタートアップ期はそういうサーバでも問題ないんだけど、安定した収益をあげたい商業サービスの場合はサーバをできる限り落とせないから、同時アクセス数の確保から監視から、バックアップからそれなりのコストを当てる。

みんなの大半が無料で楽しんでいる2ちゃんもニコニコも、それなりの桁数のサーバ費用がかかっている。ニコニコなんかは赤字もコンテンツにしてしまうような楽しい姿勢でやっているが、数%の有償会員やログの有料リーダーやポイントなどの仕組み、広告などを入れてもなかなか黒字に至らないことでもわかるだろう。テキストベースならともかく動画というのはものすごく採算性がよくない(けど面白い)。

ましてや皆さんにタダのインフラを提供しまくっているGoogleも、ものすごくサーバを最適化しデータセンターコストも下げて、かつ広告で採算をとっているものの、例えば「あれみんな自費でお願いします」みたいな話になったら、個人負担がいくらかかるであろう。

webの原価率は印刷代のように、たくさんユーザーがいると限りなく大きく下がるというものではない。原価率とかいう概念があまりwebサービスでは(表側で)共有されていないのが残念だが。まあインターネットというインフラが初期は「みんな無料で共有できる夢の世界」みたいな少しヒッピーがかった思想からできているし、実際、ネット内での主要媒体は無料メディアが軸になっているから、しょうがないのだが。

webは複数手段での収益で原価を下げるのが主流

いかに「サービス」を収益化するか (Harvard Business Review Anthology)

いかに「サービス」を収益化するか (Harvard Business Review Anthology)

で、webでは、原価がそんなにスケールメリットで下げられない部分を、いままではスケールメリットによって入る広告のみで補っていたのが実情だ。しかし、最近のwebでは採算モデルを「広告」だけにおかず、『複数収益化』を図ることで、結果的に1人頭のコストを落としているケースが多い。

「広告」+「アバター、アイテム」だったり、「広告」+「小額課金」+「ログ販売」だったり、「広告」+「予約」だったり。googleの場合は「広告掲出」+「広告出稿」+有料「googleApp」(+海外だと決済とか)とかになるんですかね。Vectorなんかも「シェアウェア課金」のみならずバリューモアの「通販」を行っていたりしますね。

これはかつての出版も、売れてる場合に限っては「販売収益」のみならず「広告」「単行本」「海外への版権、DVD、CD、グッズ等の二次商品利益」「携帯化」「古紙や特価本等の在庫処分(これは利益創出ではないですが、ある意味売れている状態での残部数をやると利益が増える)」といろんな収益機会があったのですが。いま雑誌が休刊しているのは、「広告の下降による不採算」と「スケールメリット低下」が主です。ここで出版の話を挟みこむ意味はないんですけど、まあうちのブログ特性上許してください。

Webに広告費が回って来ている、とはいっても、ここのところのAdsenseの単価低下のように、不況の影響と出稿側の学習によって、今後は一般広告であっても1サイトあたりの単価が下がることは十分に予想されます。単一の収益軸では、いつかそれに対する危機が来た際にどうしても危機回避ができづらいくなります。そういう意味合いでも、単なる広告モデルではない『複数収益化』が、webサイトをより盤石なものにしていくのではないでしょうか。サイトも複数あるにこしたことないですけどね。

本とケータイ、似て非なる収益の最大化手段

ケータイサイトの収益モデルでちょっと面白い話を聞いたのは、たとえば当たったサイトがあるとしますよね。そしたらそれの類似サイトというか、同じものの入り口違いをどんどん増やしていく。他の会社から買ってでも増やす。みたいな収益の最大化へのやり方。これ、意図は違うにせよ出版のやり方に似てるんですよね。「売れたものの競合をあえて自分の会社から出す」みたいなものは、出版の世界ではあって、ただケータイサイトと出版の世界では考え方は違うんですけど。出版の場合は、完全に競合同士は(似てても)別のものを出すということで、切磋琢磨というか、社内ライバル同士の差別化による利益の最大化を狙うのに対して、ケータイの場合は、SEOしてもたどりつくとは限らないということもあるのか、いろんな所に(実質的に同じサイトの)入り口を増やすことによって、単純に接触機会を増やして全体収益を上げるという感じ。

時代としては、そういう(出版における)人同士の競わせ、よりも(サイトは)効率を重視するという、昔よりもドライな考えなんでしょうね。そのほうが労働環境はまともになりそうですが。

ケーススタディ労務相談事例集1-基礎知識&労働契約に関する相談編

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まとめ

出版印刷→たくさん刷るとコストが下がる、スケールメリットによる二次収益モデルがある→そのスケールメリットは下がりつつある。
Web→たくさんユーザーが増えるとコストが上がる、スケールメリットによる広告収益モデル→さらに複数収益化が流行ってる
ケータイ→ヒットしたら入り口をたくさん増やして1サービスでの最大収益化



ケータイとWebでかぶってるところもあるし、ケータイも数社がそうなだけだということもあるので、全てをもって言ってることではないのであしからず。

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