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写研がシェアを失った理由

フォントスタイルブック〈2008〉 (Works books)
写研フォントを使わなくなって、もうずいぶんたちます - ある広告人の告白(あるいは愚痴かもね)
http://mb101bold.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_518c.html


これ見て思い出したけど、かつて一般の人が活字だと思っている「写植」というものがあった。写真植字、印画紙に文字が打たれていくもの。昔のマンガの吹き出しに編集者がよく文字を貼ってるものをイメージしてもらえればいい。いまは、そういうものすら使われなくなり、MacからDTP(デスクトップパブリッシング)で直接印刷製版用のフィルムが出せるようになっている。Macなのも別に新しくなく、環境が整っていた旧来の名残で、一般企業のビジネスユースの場合はほとんどWindowsDTPだろう。



写植全盛のその頃(80-90年代)は世の中の文字という文字は写研という会社のものだった。もう1つ、モリサワという、いまMacDTPではメジャーなフォント会社があるが、そこは当時は関西以西でシェアがあって、「関西ではモリサワ、関東では写研」と言われていたのだった。実際地方のタウン誌を見ているとそんな感じの分布であったのだ。実際は関東優位で圧倒的なシェアは写研が持っていた。

企業判断は時に誤ったことをする、のはHD-DVDを見るまでもなく

しかし、DTPというものが出てきたとき、写研は書体を提供することを拒んだ。それによってモリサワとフォントシェアが自然に逆転、モリサワの書体シェアはいまは圧倒的になった。いまやデパートの垂れ幕でさえだいたいモリサワフォントとなっている。


写研は元記事のように職人を守った…といえば体裁がよいが、実際のところはそんな理由とは思えない。単に王者に胡坐をかいたというか、体質が古かっただけではないか。いままでの家電会社の規格シェア争いみたいなもので、企業は(もともと企業は欲があるものだが)独占欲が出ると市場では慢心しやすい。


写研の書体はデザイン力と見栄えが優れていたため、出し渋ったあの時にはみな写研書体を望んでいた。でもいまや、写研書体なんて広告とか見出しでどうしても要るとき以外はみんな使うことすら考えていないのではないだろうか。というか写研すら知らないDTPデザイナーの世代になっている。


あの時に、フォントを提供していればいまでも写研王国が続いていただろうに、判断を誤った上層部の人のせいで書体の作者たちはかわいそうなことになった。まあそのせいで、写研書体はすでにノスタルジーをもってみられることとなり、90年代までのポップで軽い雑誌とかと2000年代以降では明らかに本の時代感覚に書体のイメージも付随するようになってしまった。モリサワ=現代的、写研=ノスタルジック に見えるようになってしまったのだ。


あのときに企業上層部が判断を誤っていなかったら、そういう印象は持たないわけで。
人の感覚っていうのも不思議である。


そのうち、ノスタルジーから写研書体がのしあがる時代も来るかもしれないから、また逆転はあるのかもしれないけどね。


似ているといえば似ているのはパソコンの世界。PCのシェアでも上層部判断というのは重要で、Vistaみたいに支持されないものに過剰に振り回されたりするから大変ですな。

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